中小が大手に負けないWebサイトとは

5月に、民間職業紹介ジョブフィットさんのWebサイトを納品させていただきました。ちょうど社名を「コンテクスチュアリー・コンテンツ・スタジオ」と変えたタイミングでの完成というありがたきご縁となりましたので、少し長くなりますが語らせてください。

個人でも大手に勝てることがある

代表の栢森さんは、人材会社でキャリアコンサルタントとして活躍したあと2019年に独立。スキルを持った人材と、そんな人材を求めている地元企業の橋渡しをする就職エージェントです。

職業紹介業というのは、片側にたくさんの求職者がいて、もう片側にはたくさんの求人企業があって、そのふたつのニーズを結びつけるマッチングサービス。つまりシェアが大きくて大量の利用者データを保有できる大企業に有利な業界だと言えます。

だけど一方で、それはものすごく「ひと」で成り立っている業種でもあります。

どんなにIT化して情報を駆使していても、最後に人と人とを結びつけるのはやっぱりエージェントの持つ生身の人間力。築いてきたコネクション、人材の能力を見抜く洞察力、企業の人材ニーズを的確に読み取るノウハウなど、ベテランが時間をかけて積み上げてきたヒューマン・スキルが大きな付加価値となる仕事です。 こういう目線でとらえれば、個人の力で勝負する中小企業の良さが生きてきます。

そんな職業紹介業のためのWebサイトづくり。

求人案件をたくさん載せて就職ポータルにしたり、「転職」「静岡」のようなキーワード検索への対応(SEO対策)に力を入れることが真っ先に思い浮かびますが、物量で大手に対抗するのは大変です。リソースの限られた中小企業にとって、そこにお金と労力を吸い取られるのは得策ではありません。

多くの場合、小さな会社のWebサイトの勝負どころは情報量ではなく「ブランド・イメージ」であるべきなのです。Web制作業者のセールス・トークに安易に乗っかって、自分で管理しきれないような情報集約型サイトを作ってしまうと、後で苦労します。

ここでいう「ブランド・イメージ」の発信スタイルというのは2種類あって、ひとつはブログやSNSでマメに発信し続ける、動的な情報(フロー・コンテンツ)。ちょっとずつでも、他愛のないことでも、露出し続けることで存在感が記憶に残ります。

そしてもうひとつは、自分の核になっている不変の強みや方向性をストーリー化する、静的な情報(ストック・コンテンツ)です。こちらは、ぶれないことに価値があるので一度作れば長く使えますが、そのぶんエッセンスを丁寧に掘り下げて作る必要があります。

ブランディングとは「こんなふうに見て!」を刷り込むこと

ジョブフィットさんのWebサイトづくりでは、ストック・コンテンツを主体として会社の核になるブランド・ストーリーを端的に描ききることに予算を集中しました。これは、訪問者を連れてくる導線としてのFacebookでの継続発信、そしてご本人が足で稼ぐ営業活動ありきです。地元で事業を行う場合、検索されるのを待っているよりも、なんだかんだいって自分の顔で引っ張ってくるのが一番強い。

実際に会って営業することを前提としたとき、「フレーミング」という考え方が役に立ちます。フレーミングとは、先に「こういう目線で見てくださいね」という額縁(フレーム)を用意することで、相手のものの見方を方向づけること。

たとえば結婚相談所でちょっと寡黙な感じの異性と知り合うとして、「この人は思慮深くて落ち着いた人ですよ」と言って紹介されればそれが知性の高さに見えてくるし、「この人はおとなしくてシャイな人ですよ」と紹介されればそれが頼りなさに見えてしまうような、そういう心理です。

ビジネスで人と初めて会う約束をしたとき(職業紹介業でいえば、見込み顧客となる求人企業や求職者)、相手は「どんな会社だろう」と思って、たいていはそこのWebサイトをチェックします。そんなとき、面会に先んじて「相手にどう見てほしいか」「どういう基準で判断してほしいか」をフレーミングしておけば、好ましい第一印象を持ってもらいやすくなるし、打ち合わせをスムーズに進められる、というわけです。

ジョブフィットさんのWebサイトにおいては、会社の特長の抽出方法や、ややポップめなデザインテイスト、シンプルなイラストのチョイスなどの部分でフレーミング効果を狙いました。これがどう機能しているのか、ちょっとサイトを見ただけでは分からないかもしれません。求人企業の担当者さんや職探し中の人が実際に栢森さんと会ったときに、サイトのイメージとご本人のイメージがカチッと組み合わさって好印象になるようにしました。

先に述べたヒューマン・スキルというのは中小企業にとって大きな差別化要因となるのですが、これは数字データと違って直接的にアピールしにくい。ただ言葉で「私、頼りになります」と書いただけでは説得力が足りません。実際に体験して良さを認識してもらえるように、オンラインとオフラインをセットで活用することが、地域密着型中小事業者のWeb戦略には求められるのです。


お仕事が終わって

実は栢森さんと最初にお会いしたきっかけは、今回のWeb制作の仕事ではなくて、人材紹介のお仕事をつうじてのことでした。当社(Face to Face編集部)での職に興味をもった方がいて、その面接を申し込んできたのが栢森さんです。

栢森さんの就職エージェントとしての姿勢に、私は「親身」で「正直」で「丁寧」という印象を受けたのを覚えています。転職活動中の人(クライアント)の長所と弱点をよく理解し、面接中は必要なところで的確にサポートをし、しかも決してでしゃばりすぎずクライアントの主体性を損なわない。調子の良いことなどを安易に言わない。まさに求職者とエージェントとの二人三脚という感じです。

私も2回ほどエージェントを使った転職をしたことがあるので「ああ、こんな人が転職活動を手伝ってくれたら実に頼もしいなあ」と思いました。仕事選びは職業観、つまりは人生観と直結しています。エージェント自身が相応に深みのある人生観を持っていないと、自分のクライアント一人ひとりの生き方にこんなに丁寧に向き合うことはたぶんできないのです。

ついでにいうと、雇う側として 2回ほど大手エージェントを使った採用をしたことがありどちらも痛い目にあっているので「ああ、こんな人が人材を探してきてくれたら安心だなあ」とも思いました。企業からしたら、「ノルマがあるから、もうどこでもいいから押し込んじゃえ」とか「この人は前の会社で問題起こしたけど不利になるから黙っておこう」とか「とりあえず面接させてみて後は知らんもんね」みたいな、腹に一物持ったエージェントが一番困るのです。

経済学ではこれを「プリンシパル・エージェント問題」といいます。間にいっぱい人が入ると依頼人と代理人の間で利害関係がずれてくるよ、という意味です。

大手企業は情報量や機動力で圧倒できる反面、組織力学上のいろんな思惑が絡みやすい一面もあります。それに対して、ベテランが自らサービスを提供する小規模事業者は、「親身さ」「正直さ」「丁寧さ」が武器になることがよくあるのです。

そんな栢森さんの仕事姿勢が、このWebサイトでうまく伝わってくれればいいな、と思います。

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