さて前回は、地域月刊新聞Face to Faceのメインコンテンツ「Face to Face Talk」の基本コンセプトについて書きました。今回は「じゃ、実際にどうやって取材対象を見つけてきてるの?」ということを書きたいと思います。けっこう、こんなこと書いちゃっていいのかな、という裏話も混じってるので、ややドキドキです。
Face to Faceは2004年の創刊で、地元で活躍する人を表紙とインタビューで紹介するという今のスタイルの原型ができたのが2008年。これを書いている2020年10月の時点で、12年に渡って人探しを続け、約150人をご紹介した計算になります。
ちなみに私は2011年に富士に帰郷して発行元(星野新聞堂)に加わるまで東京でPRの仕事をしていたので、初期の頃のFace to Faceにはほとんど関わっていません。私の長年の相方、ライター兼カメラマン兼編集者の飯田耕平くんは2010年の入社なので、Face to Face編集部歴は彼のほうが長いということになります。
さらに私は2011年の入社後もしばらく別の事業(星野新聞堂の本業である新聞販売事業)に注力していたので、2010年代前半はFace to Faceの制作を飯田くんがほとんど一人で回していたわけなのですが、2014年8月号の樹木医・喜多智靖さんからは私も取材に同席するようになりました。喜多さんの話がとても面白かったので、そのまま毎回出ることにしたとも言えます。さらに人選まで含めて本格的に首を突っ込むようになったのが、創刊100号記念として富士市長の小長井義正さんにご登場いただいた2015年4月号からです。だいたいその頃から、編集方針やデザイン、メディアとしての方向性も少しずつ変わってきているのが感じられるかと思います。
さて、個人的な内状話はこのくらいにして、本題に入ります。12年もやってきたので人の探し方もいろんなパターンがありましたが、おおざっぱに言うとだいたい次のような方法で見つけてきています。
1.ローカル新聞記事の切り抜き
富士ニュースや岳南朝日、静岡新聞など、地元の新聞は面白い活動している人の宝庫です。富士地域はもともとこういったローカル紙が充実しているのです。それから富士市役所が発行する「広報ふじ」なんかもよく参考にします。
飯田くんはそういうところが実にマメで、せっせと切り抜いてファイルしています。私は逆に、ほかの媒体で紹介されているのを見ると「あー、先を越されたー」と思ってちょっとだけ萎えてしまいます。
そんなわけで、切り抜いた新聞記事はすぐに使わず、しばらく寝かせておくことが多いです。世間の注目とかパブリシティ的仕掛けに乗っかりたくない、という意地みたいなものと言ってもいいかもしれません。
そしていざ取材する段になっても、絶対に他の新聞と同じ切り口にはしません。インタビュアー業界ではよく「WHYを5回繰り返せ」なんて言い方をしますが、少なくとも「ヨソより2層深く掘り下げる」ことを心がけています。
2.過去の登場人物からの推薦
以前Face to Faceに登場した人たちなどが「こんな人いるけど、興味ある?」と教えてくれるケースです。いわば「笑っていいとも」方式です。「いいとも」みたいに連続して繋がっていくわけでありませんが、「さて、次は誰を取材しよう」なんて思っているときに、タイミングよく連絡をいただいたりします。
実は最近、このパターンがいちばん多い気がします。当紙に登場する人たちの多くは活動のネットワークが広いですし、精力的に活動する人のところには、同じく精力的に活動している人が自然と集まってくるものなのだと思います。
直接のご紹介じゃなくても、過去に登場した人のFacebook投稿にヒントが隠れていることもよくあります。その人のタイムラインにたまたま別の面白い人が出てきて、気になったりします。だから近頃はFace to Faceにご登場いただいた人にはずうずうしく友達申請させていただいています。
人からの推薦の場合、活動内容や人柄の面で安心感があるし、間に入ってつないでくれるので話も早いです。もちろん、推薦されたからといって誰でも彼でも取り上げるわけではありませんが。
3.信頼できる筋からの情報
過去の登場人物以外でも、公的機関や文化施設、そのほか信頼できる筋から「こんな人がいるよ」とお話をいただくことがあります。
社会的課題など取り上げてみたいテーマが先に決まっているときには、逆にこちらから詳しそうな人に相談することもあります。
公共施設や社会貢献団体などの活動を紹介したい場合は、登場していただく個人をその団体に選んでもらう場合もあります。その活動について一番最適な人選が誰なのか、外から見ただけでは分からないことがあるからです。代表さんのこともあれば、最前線で働くスタッフのこともあります。
4.読者からの声
毎月の読者プレゼントアンケートに「今後取材してほしい人」として挙げられているお名前は必ずチェックしています。ブログやSNSが盛んなおかげで、たいていは何らかの情報が見つかります。
ときどき、読者さんからメールや電話で情報をいただくこともあります。たまに、自薦として直接ご本人や身内の方が面会にいらっしゃることもあります。
もちろん、情報をいただいたからといって必ず取材することはできませんし、あまりに自己顕示欲とかゴリ押しみたいなものが感じられる場合は早い段階でお断りしています。ここだけの話、「表紙に出るには値段いくら?」とか「無料で広告してくれるんでしょ?」とか「私を出さないなんておかしい!」と言う人もいました。
しかし一方で、社会に役立つ活動をみんなに知ってほしい、という純粋な思いで訪れてくれる方もいて、結果的にそれがとても良い記事になったりするので、自薦というだけで先入観で見ることはしません。基本的にはウエルカムで、共感を感じて直感的に面白そうだと思ったら取材候補リストに入れさせていただいています。
5.一目惚れ
イベントや講演などで活動を直接見たり、展示されている作品を見たりして、「この人に会って話を聞いてみたい」と思って取材依頼するパターンです。当紙イベント情報コーナー「イベントざんまい」が知るきっかけになることも多いです。
最近だと、Vol.165で紹介した「わんわん大サーカス」の内田さんもVol.164のマジシャン・オイルさんも、たまたまステージを見る機会があって「会いたい!」とピピッと感じたのがきっかけでした。それからVol.158の染色家・市場勇太さんは、ロゼシアターに展示されていた作品を見て度肝を抜かれ、「これは取材せねば」と思ったのでした。
この「自分で直接見て、取材したくなる」というパターンがいちばん王道なのですが、間に紹介者が入らないうえ、相手が奥ゆかしく目立ちたがらない方であることも多く、辞退されることはわりとよくあります。そんなときはやっぱりちょっとへこみます。
6.もともと知っている人(お友だち)
最近ではこのパターンはほぼありませんが、実をいえば創刊初期の頃はほとんどこれだったようです。私が取材先を選ぶようになってからは、この方法で声をかけたのはたった一人、日本画家・岩山義重くん(Vol.112)だけです。彼は小中学校の同級生で、今は首都圏を拠点に全国的に活躍しています。
私がこのパターンをやらないのには理由があって、富士出身とはいえ大学以降ずーっと東京に出ていた私は、実はもともとの地元での顔が全然広くないのです。ある意味、Face to Faceの取材をつうじてあらためて地元のつながりを開拓しているようなものです。
いずれにせよ、もともと知ってる人だけだと取材対象の幅が限られてしまうし、私はあまり縁故主義とか内輪ウケみたいなものが好きではないので、岩山くんのように客観的に際立った才能とユニークさを持つ人物でないかぎり、これからもこのパターンは滅多にないでしょう。
さて、こんな感じでネタ探しを続けて、私の取材してみたい候補者さんリストにはいつも一応20〜30人ほどのストックがあるのですが、活動内容や性別、年代、季節性、タイミングなどを考慮すると意外と選び難しく、「次の号は誰を取材しよう」ということにいつも悩んでいます。いっそのこと「インタビューする人推薦委員会」みたいなのを作っちゃいたいくらいです。
と、偉そうにいろいろと書いてきましたが、基本は上から目線でも下から目線でもなく、「私たち」と「取材対象者さん」の互いにメリットがあってWin-Winになるような対等な関係でないと、長くは続けられません。そして「読む読者さん」も含めた3者みんなが何らかの発見や気づきを得られるような、そんな記事を目指してやっています。
次回は「じゃ、どういう基準で選んでるの?」という話をしたいと思います。